救われない重さに

加賀乙彦さんの「宣告」を思い出した。


なんて悲しい、深く深く、塞がらない瑕なんだろう。

死刑制度について、さまざまな意見があることが百も承知ですが、
もし自分が・・・と置き換えた場合、
大切な人の命と未来を奪った人間が、
たとえ塀の向こうであっても生き延びていることを
平静に受け止められるかと思うと、到底できない気がする。
生き延びているそれだけで、はらわたが煮えくり返る。

でも、じゃぁ殺せばいいのかと言うと、それも違う気がする。
殺しても、復讐しても、戻ってこない。
どんなことをしても、愛しい人たちは微笑まない。

被告がどれほどその重さを受け止めているかは分からない。
談話を伝えるインタビューは、インタビュアーのフィルターが掛かりすぎて
真正面に受け止められる言葉が一つもない。

空しさばかりが残る判決だったね。

「勝者はだれもいない」という遺族の言葉は悲しく、とてつもなく重い。

「90ミニッツ」

◇場所:PARCO劇場

◇出演:西村雅彦、近藤芳正


三谷幸喜作品「90ミニッツ」東京公演(追加公演)千秋楽に、PARCO劇場へ。

行く前に、幾つか感想を読んだんですが、ググッって上の方に出てくる感想は
あまりいい印象のものではなかった。

けれど。

実際に見ての感想は、それらと真逆でした。
私はこの作品、とても大好きです。
今まで見た三谷作品の中でも、上位幾つかに入るいい舞台だった。

見る側の期待の方向や考え方とで、評価が変わる作品なのかも。


銀色にも見えるフラットな舞台の上に、医療用のカーテン、
電話の乗ったデスク、アームレスト付の椅子、対面する位置にソファ。
その中央に、上演の間ずっと、象徴的に一直線に滴り落ちてくる、水。

出演は、二人きり。
その間に滴り落ちる水のラインは、決して相容れない二人の立場を分かつ
境界線のようにも見えます。

交通事故で救急病院に運び込まれた9歳の少年。
手術をするため、少年の父親に承諾書サインを求める副部長。
宗教(舞台中では、地区の掟、とされる)を理由に、
「輸血はできない」と、頑なにサインを拒み続ける父親。
この二人の、堂々巡りの議論が90分続けらる、緊張感に満ちた舞台。

どちらの言い分も、それぞれの正義と倫理に根ざしている。
絶対的な正義も倫理も、この世にはない。
たとえば「殺人は悪だ」と皆言う。
では、テロリストの首領の死に祝杯を上げる人々は?
独裁者を引きずり出して血祭りにあげる民衆の歓喜は?
誰も、それを決められない。
それぞれの立場、それぞれのエゴ、それぞれのルール。

我々の目からすれば、異様に思える父親の立場も、
象徴的に極端に描かれているだけで、
ちょっと転じれば我々も同じような倫理のエッジに幾らでも立っている。
『息子を見殺しにするのか」と医師に詰め寄られた父親は叫ぶ。
「私はずっと、そう信じてやってきたんだ!!!」
愚かなエゴイストに見えても、
信じて教えられて、拠って立つその場所を失っては
生きていけない存在の私達の矛盾。

三谷さんのセリフは、合わせ鏡のようにそっくりで正反対で、
決して交わらない二人の男の議論を、揺ぎ無く85分繰り広げる。
崩しようのない矛盾が、見ている側にも息苦しく迫ってくる。

そして最後の瞬間。
息子の命を象徴する天井からの水が止まった瞬間、
彼らは、決意を迫られ、彼らは選ぶ。
あるものは、今ままで積み重ねたものを崩す決断を、
あるものは、これから先決して乗り越えられない「3秒間」を。


こう書いていてもぞくぞく来るくらいに
引き込まれる緊張感に満ちた舞台でした。
主演のお二人、本当に素晴らしかった。


事前に読んだ他の方の感想を見たときにも思ったけれど、
三谷作品だと、「笑いがあるのが当然」と期待してくる人が多いのね。
「笑えなかった」と不満ポイントにしている人が多くて
ちょっと驚いた。コメディじゃないと思ったんだけど・・・。

主演の二人の掛け合いの間合いが絶妙で
確かに笑いが起きる場面もあったけれど、、、
実際、客席でも無理に笑い箇所を探すような雰囲気が感じられて、
ちょっとイラっとするところもあった。
楽しみ方はそれぞれと思うけど
テレビでひたすらイメージ付けられているような感覚で、
「三谷さんだから常に笑いを」って先入観でこの舞台を見るのは
正直もったいないと思った。

終演後に、もし自分なら・・を省みてしまうような舞台でした。

余談だけど、上演中に地震がありました。
揺れはそうでもなかったけれど
キャットウォークに吊るされた照明がいつまでもカチカチ音を立てて揺れてて
ちょっと怖かったです。
もうおさまってほしいよね・・・地震><。

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